人妻たちの饗宴 The Old Crow Bar (10)
無料連載の官能小説です。郊外のバーを舞台に、マスター裕次と、さまざまな人妻たちの関係を描きます。
次回は12/20に公開します!
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『人妻たちの饗宴―The Old Crow Bar』 (10) 沢見独去
第3章 奈々(承前)
一席おいて奥に座っている若いサラリーマンが横目でちらちらと彼女を見ている。さぞやいい景色だろう。こちらはカウンターが邪魔で下半身が見えない。少し残念に思いながら、裕次は彼女の正面に立った。
「奈々さん。なににしましょう」
「なにかビールのカクテルが飲みたいわ」
「じゃあカンパリビアでも作りましょうか」
奈々はにこやかに頷いた。髪型もいつもとは違って、きちんとまとめて結い上げている。銀のバレッタが頭の後ろで光っていた。
白い喉を一瞬見せて、彼女はカクテルを飲んだ。満足げに頷く。
「あら、おいし。ああ、マスターもなにか呑んだら?」
「いただきます」
自分用にワイルド・ターキー・ライでマンハッタンを作る。面倒なので、砂糖漬けのチェリーは省略だ。
「では、いただきます」
グラスを軽くかかげて、一気に半分ほど呑む。
「マスターっていったい何のお酒が好きなわけ? いつも違うの呑んでるけど」
「そうですねえ。バーボンが一番好きなんですけど、味を忘れるといけないので、なるべくいろいろな酒を呑んでます。まあ、どんな酒でも好きな節操のない男です」
「バーテンダーにぴったりねえ」
奈々が笑い、つられて裕次は苦笑いする。
カウンターのカップルと、OL三人組が帰って行って、店内は奈々と若いサラリーマンだけになった。彼は横に奈々が座って、帰るタイミングを逸したようだ。今まではスコッチをロックで呑んでいたが、奈々のセクシーな姿にあてられて喉が渇いたのか、モヒートを注文してきた。
奈々が三杯目のカシスビアをあけた頃に、スマートフォンが振動して、彼女はメールを確認する。顔をしかめて言った。
「ひげオヤジからよ。遅くなるんだってさ」
「マスター、今日は遊び人ですね」
カフェのひげのマスターとは、お互いにマスターと呼び合っているのでややこしい。
「うちのダンナさあ、あたしに隠れて高校時代の友人と風俗に行ってるのよ。ソープランド。あたしにはばれてないと思ってるけど、全部お見通しよ。今日も絶対そこよ」
裕次は自分も行かないことはないので、コメントしずらい。しかたなく当たり障りのない相づちに留めておく。
「そうなんですか」
奈々は通った鼻筋をつんと上に向けて、顔をしかめた。
「そうなのよ。この間一般論としてさあ、結婚してるのに風俗に行くような男はどうなのってダンナに言ったら、ぎくりとしながらも、あいつ、こう言ったのよ。風俗は浮気じゃねえ……ってさ。どう思う、マスター」
裕次は返答に困る。
「うーん。どうなんですかねえ。肉体的な浮気と精神的な浮気ってわけですね。難しいけど、女性次第なんじゃないですか」
困ったので一席開けて奈々の右隣で聞き耳を立てている若いのに振ってみた。
「どう思います?」
「え? ぼ、ぼくですか。……そうだなあ。どこからが浮気なのか、線引きが難しいですよね。それなら例えば、彼女がいるのに、他のかわいい女の人の出てるビデオを観て、じ、自分でするのは、どうなんでしょう? これも浮気になるんでしょうか」
言いにくい話題につかえながらも、若いのになかなかしっかりした答えを即座に返してくる。裕次はそのサラリーマンのことを見直した。
奈々が横を向いてその彼に目をやった。
「風俗はマスターベーションの延長って理屈ね」
「そ、それよりは、肉体関係がなくても、精神的にパートナーより好きな相手がいたら、そっちこそ浮気じゃないかと思います」
奈々はじっとその若いサラリーマンを見つめている。
「ふふっ。男の勝手な理屈だけど、まあ一理あるわね……」
そこで言葉を切って、すっとその彼の左隣の席へ移る。
「それなら、あたしも肉体的な浮気をしちゃおうかしら」
サラリーマンが赤い顔をしてどぎまぎとうつむいてしまう。
大きな声で奈々が笑った。
「あはははっ。まあ、こんなところでうちのダンナのことをうだうだ言っててもしょうがないや。いいから呑みましょう。マスター、この若い彼にもなにか一杯」
「なににしましょう」
「じゃあ戻して、グレンリベットをロックでください」
「じゃああたしはサイドカー」
「かしこまりました」
スコッチのロックを作り、サイドカーをシェイクする。二人に出しておいて、自分用にはバーボンロックをダブル以上で作る。
裕次がロックグラスを掲げる。丸い氷がからんと鳴った。
「では、マスターの浮気に」
三人で改めてグラスを打ち合わせて乾杯する。
目の前では、隣同士で座った二人の会話が弾んでいる。若い彼は名前は大介、二十五歳だということがわかる。
その若さなのにきちんとオーソドックスな注文をし、若い男にありがちな通ぶった態度も取らないその彼に、裕次は好感を覚えていた。
奈々が笑う。
「ごめんねえ、こんな年上の女の相手させちゃって」
大介が顔を赤らめて消え入るような声でつぶやく。
「そんなことないですっ……な、奈々さんはおきれいです……」
「あははっ。女を誉めるときは、もっと大きな声で言わないとだめよ」
これは、二人は意気投合、一緒に帰っていくパターンかなと裕次は思い始めていた。見知らぬ男と女がバーでたまたま隣りあって、そんなことになる。何度もそれは見てきたし、長い裕次のバーテン生活の中では、それで結婚までいったカップルも何組もいたし、いわゆる不倫のカップルもたくさんあった。
これはお持ち帰りの感じだな。しかし、奈々のほうが若い大介をお持ち帰りするって感じだが。
裕次はそう思い、ひそかに苦笑いをする。こんなにきれいな奈々を、若い男に持って行かれることには、ひそかに悔しい思いもあったが、今日は由里と昼間、車の中で思わぬセックスをしてしまっている。
まあ今日はこいつに譲るか。
裕次はそんな気持ちになっていた。
二人はもうかなり酔っていて、赤い顔をしている。つきあってバーボンをあけている裕次もかなりまわってきた。
彼がトイレに行っているあいだに、どうも話の内容がそんなことになったらしく、奈々は大声を上げて驚いた。
「ええーっ。マスター、今の聞いた? 大介くんてば、まだ女を知らないんだって」
微妙な話題を大声で言われて、彼は赤くなって縮こまっている。
裕次は少し彼がかわいそうになった。
「それは意外ですねえ。もてそうなのに。それにこんなところにも一人で来ていらっしゃるから、女性にも慣れている感じがしたんだけど」
「それが……酒は好きで、一人でバーで飲むのも大好きなんですけど、女性の前に出たら、どうもだめで……」
奈々が大介のほうに体をよせながら、笑う。
「チェリーボーイかあ。なんか母性本能をくすぐられるっ」
奈々が身をかがめたすきに、黒のスリップドレスのゆるい胸元から、黒のレースで縁取られたストラップレスブラが見える。そのカップもすこし浮き上がって、あまり大きくない奈々の胸のふくらみが半分くらい見えた。
さらに肩が触れるまで奈々が彼のほうへ近づいていく。もじもじしながらも、彼もしっかり奈々の胸元を見たのが、裕次にはわかった。
裸の奈々の肩が、若い大介のYシャツに押しつけられる。彼女は流し目で彼のほうを見た。
「大介くんのその童貞、あたしが貰っちゃおうかなあ」
奈々が体をひねって大介のほうをむいた。手が彼の太ももに置かれる。大きく緩んだ胸元に目をやりながら、彼は真っ赤になる。
「……え、そ、それは、その」
「こんな年上じゃ、だめかしら」
ますます妖艶な表情で、顔を彼のほうに近づけていく。彼はしどろもどろになって、なんとか返事をした。
「あ……いや……そ、その……奈々さん、ほんとに、い、いいんですか?」
「んふ。大介くんがいいなら……」
彼女の右手がもぞもぞと動き、「うっ」と大介がうめく。カウンターの下で、奈々の手が彼の股間をまさぐっているようだ。
「あら。もうこんなに……」
奈々の顔はますます彼に近づいて、もう耳に唇が触れそうなほどだ。
裕次は苦笑する。
「お二人さん。そろそろ河岸を変えたらいかがですか?」
奈々の切れ長の目がこちらを向き、艶然と微笑んだ。
「あら。マスター焼きもち焼いてるの? いいじゃない。他に客もいないんだし……」
彼女の横では、大介が身体をもじもじさせている。彼女の手の動きで、カウンターの陰で彼のペニスが取り出されたのがわかる。それを奈々は握りしめ、ゆっくりとしごき始める。赤い唇を真っ赤になっている彼の耳に近づけると、ゆっくりと息を吹きかけた。
「ああっ、奈々さんっ」
奈々の顔も上気して、ピンク色に染まっている。
「大介くん、かわいい」
これだけ堂々と隣の客に手コキをする女性を見るのは、裕次の長いバーテンダー生活の中でも初めてだった。
色っぽい服を着て、若い男のペニスを手でしごいている奈々の姿態は、すばらしく目の保養にはなったが、いくらなんでもこれでは若い彼がかわいそうだ。
裕次は再び苦笑すると、男と女の性的な興奮が高まりつつある二人に、声をかけた。
「じゃあおれは奥へ引っこんでるから、ともかく店を出る時は声をかけてください」
カウンターの奧には半畳ほどのキッチンがしつらえてある。客がいないときは休めるように、椅子が置いてあって、ノートパソコンなども使える。
まあ音はともかく、姿は見られずにすむ。
奈々がゆるりと大介の肉棒を愛撫しながら、光る目でこちらを見た。
「あら、なに言ってるの、マスターったら。早く店閉めて。それで、お隣へいらっしゃい……」
「え……?」
彼女は左側のあいているスツールをぽんぽんと手のひらで叩いた。
「あたし、今日はむちゃくちゃに乱れたい気分なの。二人まとめて、相手にして、あげる……」
大介のものを上下に揺する彼女の腕の動きが速くなって、彼が目を閉じてうめく。
「うううっ、だめです……奈々さんっ」
(つづく)
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