人妻たちの饗宴 The Old Crow Bar (5)
無料連載の官能小説です。郊外のバーを舞台に、マスター裕次と、さまざまな人妻たちの関係を描きます。今回から新しい章へと入りました。もうしわけありませんが、今回はエッチなシーンはなしです^^
次回は11/25に公開します!
下の続きを読むからご覧ください。
『人妻たちの饗宴―The Old Crow Bar』 (5) 沢見独去
2 由里
裕次の自宅は、歩いてすぐの古びたアパートだ。
帰ってくるのはいつも遅い。
店の閉店時間は決めていない。客がいればあけているので、下手をすると朝方まで部屋には戻れなかった。その時にはすでに酔っぱらっていることが多いので、そのままベッドに倒れこんで寝てしまう。
起きるのはいつも、昼を大きく回ってからだ。
その日は前日あまり客が来なかったので、午前三時には部屋に戻れた。そのまま寝て、昼の十二時に起きた。これでも七時間は寝ている。不規則ながらも、睡眠時間はちゃんと確保できていた。
起きるとシャワーを浴びて、私服に着替え、部屋を出る。
朝食というには遅すぎるのだが、裕次にとっての朝食は、家でなにか適当なものを作ることもあったが、この日は、店の買い出しがてら外で取ることにした。
アパートの隣の駐車場に駐めてある黒のフィアット500に乗りこみ、まずは国道沿いのカフェに向かう。
一週間に一度はそこのカレーライスを食べたくなる。なにもかもが煮こまれて、まったく具のなくなったカレーだ。別に塩こしょうを効かせて焼いたサイコロステーキを熱々のご飯の上に乗せ、その上からそのルーがたっぷりかかっている。何を隠し味に使っているのか、その味は辛くて、コクがあって、絶妙だった。
そこの主人は五十がらみのクマみたいな印象の顔中ひげ面の男で、五年ほど前に脱サラして店を開いたのだと言っていた。
店のドアを開けると、そのひげ面が愛想よく笑いかけた。
「お。マスターいらっしゃい」
自分もマスターのくせに、裕次のことをそう呼ぶのだ。酒好きの彼は、たまに裕次の店にも顔を出してくれる。
「おはようございます」
「もうそんな時間じゃねえよ」
ひげ面が苦笑する。
昼食時は終わっているので、店内には誰もいない。
「いつものスペシャルカレーでいいの?」
「お願いします」
国道を見渡せる窓際の席につく。
都心と違い高いビルの少ないこの街は、空が広い。青天の青い空が窓の向こうに広がっている。
厨房へ入っていったひげ面と交代するように、水を入れたコップをトレーに載せた女性がそこから出てくる。
彼女が裕次がここへ通う第二の理由だった。ひげ面のマスターの連れあいだ。まったく彼とはお似合いではない容姿をしていた。
彼女の名前は奈々。三十代後半だろうと裕次は推測していた。
長いストレートの黒髪をポニーテールにして、そこに赤いバンダナを三角にして巻いている。切れ長の目に、大きな口がエキゾチックな美人だ。背も高くて百七十センチ近くはあるだろう。タンガリーシャツに白無地のコットンのTシャツ。七分丈の体にフィットしたジーンズにスニーカー。体型はスレンダーだ。胸も尻も小さいが、しかし丸みをおびていて、女らしさは失っていない。
あのひげ面がどこで見つけてきたかと問い詰めたくなるような、いい女だった。
なんとかもっとお近づきになりたいと裕次は願っていたが、なかなか店員と客という以上の関係にはなれないでいた。
「あら、マスター。いらっしゃい」
彼女も同じく裕次のことをマスターと呼ぶ。
にこやかに笑いながら裕次のところまで来て、水を置いた。
厨房からはカレーと、肉の焼けるいい匂いが漂ってきて、裕次の食欲を刺激する。
「奈々さん、最近お店はどうですか」
「うーん。ぼちぼちってとこねえ」
国道を走る車の客相手に、モーニングと昼食を出すのが、ここの主な収入源だった。あとは裕次のように地元の常連客がちらほら現れる。ひげ面マスターの作る本格的な夕食もおいしいと評判だったが、裕次はまだ試してみたことがない。
奈々が厨房を目で示しながらささやく。
「今日はあれが、夜は友達と呑みに行くっていうからさ。あたしもマスターの店に顔を出すわ」
「わかりました。お待ちしていますよ」
あれ扱いされたひげ面が、スペシャルカレーを厨房から運んできた。
「おまちどおさま」
奈々も裕次の店の常連の一人だ。夫婦で来てくれたり、たまには一人で呑みに来たりする。
裕次は今晩が楽しみになった。(つづく)
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